平成20年3月 社内報より

 

【平成20年3月 このごろ想うこと・・】 


資源の高騰・・・この「禍い」を転じて「福」とするために

 


 BRICsの台頭による原油を始め、
資源の高騰は目に余るものがあり、今や全てのものが値上がりしています。
身近なものではガソリンから食料品まで
我社で使用する鉄の価格も一頃の2倍にならんとしています。

この事は企業努力などではもはやどうにもなりません。
かといって手をこまねいている訳にもいかず、
努力や工夫の余地がまったくないというのも知恵の無い話で
癪にさわるから今後とも更なる努力と発想の転換で
お客様にも協力していただいて、コストを下げていかねばなりません。

最近、材料メーカーの人の話では、
見た目の品質つまり外観の検査でその製品の外側に打刻している
刻印より小さなキズは機能になんの影響も無いのだから
不良にして捨ててしまうのはもったいないし、
それこそ資源のムダと環境にも良くないのでは、
と話したが、まったく取り合ってくれないとボヤいていました。

品質至上主義も大事ですが、見てくれだけ良くても機能が
伴っていなくては何もならないし、機能も見てくれも良ければ
なお結構ではありますが、それではコストが掛かります。
その部品は、エンジンルームの中でプラスチックのカバーに
隠れて自動車を買った人がボンネットを開けて見ようとしても見えません。
決して見えなければどうでも良いといった考え方ではなく、
合理的な発想の転換をしてコストを下げる事も大事だと思うからです。
車のボディのキズやフロントウィンドウのキズ等では許されませんが、
それとても1万キロも走れば小石に当たりキズが無数につきます。
だからといって車を替える人はいません。

最終的なお客様の利益を考えての価値観を見直してみる絶好の機会
捉えて見る必要もあります。
日本の製品は確かに良いのですが、過剰品質と過剰包装の部分を見直せば、
省エネ・省資源・環境にも良いと考えられます。

今から25年以上も昔の話になりますが、
我社も品質管理の一環としていち早く3次元測定機の導入を計りました。
その時の話ですが、私はどうせ導入するなら世界一の設備にしたいと、
当時ドイツのカールツァイス社製の3次元測定機を検討しました。
しかしその機械は1台5000万円を超える価格のため断念しました。

その横にあったツァイス社と提携しデザインも似ている国産で、
東京精密製の同等スペックの機械が2000万円弱という事なので
やむなくその機械の製造工程を視察した上で決定しました。
しかし当時プレス屋で3次元測定機を持って
品質管理をしている企業は数少なかったと思います。
私達のお客様でも、当時持っていても日常品質管理には使用せず、
実験室で埃をかぶっているような有様でした。

我社の品質に取組む姿勢は誇りにして良いと思います。
お金を生む機械ではないが、その事はお客様から評価され、
信用という、お金に代えられぬものを得たと思います。
その思い出の機械も今やラインオフして博物館入りを待っています。
機械としてはまだまだ使えるのですが、
ソフトが古くなり部品がなく新しいものに取替えました。
1ランク上の、又東京精密製CNC3次元測定機です。充分だと思いますが、
ツァイス社製のそれは1億円を軽く超え又々横目で見るだけでした。

25年前の話に戻ります。国産機とツァイス製の機械を比べて見ると、
デザインは似ていても見るからに高精度の機能美にまで
高められたその姿は見る者を圧倒します。
機械の重量も2倍以上、質量感も充分です。
しかし、その厚さが1mもあるかと思われる石定盤のワーク(治具)取付用ネジは、
一目でセンターがズレていて真ん中に無いのです。

早速私はクレームをつけました。
「何故こんなに高額な機械に取付用ネジがセンターに無くて狂ったままで平気なのか」と質問をしました。その質問に答えた日本語の流暢なドイツ人は平然として言いました。「それが機能にどういう影響があるのか」反問です。
私は一瞬答えに窮しましたが、せいぜい見た目が悪い、
日本人はこんな仕事はしないと言ってやりました。

しかしドイツ人は自信たっぷりな態度で言いました。
「機能に関する所は決して手抜きはなく、こだわりを持って作り込み、世界一の製品である」と。その時私も言いました。
「日本人はこのような機械は買わない」と。
実は買わないのではなく買えなかったのです。悔し紛れの捨てゼリフでした。
その時の印象は、日本の製品もこのレベルに達するまで
何年掛かるのか先の長い話だなと感じたものです。

 あれから25年。まだそこまでの考えはないようです。
それが日本品質と言えば聞こえが良いのですがはたしてどうなのでしょうか。

曲がったきゅうりは漬物にすれば
真っ直ぐなきゅうりより味も良く安心して食べられるのではないでしょうか。
曲がったきゅうりは自然ですが、真っ直ぐなきゅうりは不自然です。
真っ直ぐなきゅうりは真っ直ぐに育てる為何をしているか知れたものではありません。全ての野菜の栄養価は、昔の野菜の半分から1/3となっているそうです。
見た目の品質と商業主義に毒された野菜、特に輸入物は私は食べる気がしません。
安くて良いと言われる物を追いかける余り、
どこか狂ってしまったとしか思えないのです。

資源争奪戦争はまだまだ続くことでしょう。資源の高騰は今後も続きます。
視点を変えれば今までが安すぎたのです。
先進国と言われる国々が資源を占有し豊かな生活をしていましたが、
その何倍もの人口を抱えた国々、いわゆるBRICsに代表する人々が
参入してきたのですから自然の成り行きと言わざるを得ません。

私達は考えを変えて、金儲けばかり考えないで、
物が高くなるわけですから使い捨ての文化を捨て、
本当に良いものを大切に使う昔の日本人の文化「もったいない」の精神で
生活を見直すいいチャンス到来と考えて見る必要があると考えます。
本当に良いものは高くても買ってもらえるのです。
現代を生きる我々は「禍い転じて福となす」の気持ちで、
したたかに地道にそのような価値感の転換の中に希望を見出し、
そのための準備をしなければと思うこの頃です。


※BRICs(ブリックス)

 ブラジル、ロシア、インド、中国の4か国の頭文字をとった造語で、
アメリカの大手証券会社ゴールドマン・サックス社が
2003年秋に投資家向けにまとめたリポートで用いて注目されている。
現在のペースで経済が発展していくと、
この4か国が世界経済地図を大きく塗り替えるという予測である。


2008年03月01日